恋蛍2~トワイライト色の約束~
なんとなく、今日のいろはがあの日の母さんの姿に重なって見えてしまったのだ。


「なんでかさ、母さんみたいだねって思ってしまってね」


くはっ、と笑いながら、オレは本当になんとも思わずに口にしただけだった。


「母さんみたいだよ」


「……へ?」


いろはの手が、すっと素早く木から離れる。


「うちが?」


「いや、老けとるとかそういう意味じゃないよ。ちょっとね、小さいころのこと思い出してしまってさ。さっきも、子供の扱いがうまいねと思ってさ」


オレでも唸ってしまいそうなほど生意気な虎太朗くんを、ぴしゃりと放ったひと言で黙らせよったり。


あのへっぴり翔琉の背中を押してくれたりさ。


なんだか母親みたいな強さを持ちよる女だな、なんて。


いつか、いろはも誰かと結婚して子供を産んだら、きっと。


「いい母親になりそうだよね、いろは」


海風がガジュマルの枝葉をざわざわと揺らした。


「なに、言うてはるの……アホとちゃう?」


そう言ったいろはからは完全に笑顔が消えていた。


口元がひきつっている。


「結弦くん、うちのことからかっとるの?」


いろはの顔はみるみるうちに赤く染まり、目はつり上がっている。


赤い唇もわなわなと震え出した。
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