守神様の想い人
「ねぇ、サァラのお母さん、今日は長老に呼ばれてたよ。そろそろ贄を決めるっていってたじゃない?まさか、サァラじゃないよね?」

幼なじみのヨシュが泣きそうな顔で、畑から帰ろうとしていた私の袖をひっつかんで言った。

「えっ!?」

私が青ざめて家まで走って帰ると、家の中では母と姉が肩を抱き合って泣いていた。

「お母さん………?リジュア?」

声をかけると、母が泣きながら私のほうを振り向き、小さな声で呟くように言った。

「サァラ………、リジュアが………、贄に………、、、」

そう言って、また、泣きだした。

「そ、そんな………!?」

気がつけば私は外へ飛び出し長老の家に向かって走り出していた。

長老の家に着くと、ガイルが長老に頭を下げていた。

「お願いです。リジュアは………、リジュアを贄にしないでください!」

長老は険しい顔で黙ったままだ。

近くへ寄ると、ガイルが気づいた。

「サァラ………。」

「長老………、どうしてリジュアが選ばれたんですか?リジュアはもう、ガイルとの結婚が決まっているのにっ?!」

長老は黙ったままうつむいて、ガイルもガックリと頭を垂れた。

「すまん………、ガイル、サァラ………。贄を出したくないのはどの家も同じじゃ。公平に決めたら、リジュアになってしもうたのじゃ………。」

「………………。」

公平に………とは、贄に相応しい年頃の娘の中から長老がくじを引いたということだ。

「長老………。」

「このまま日照りが続けば皆が飢えてしまう。贄を差し出さんことにはどうにもならんのだ。」

長老が皆の事を大事に思っているのは知っている。長老だって苦しいのだ。

「長老………。私が、………………贄になる。」

「なっ!何を言ってるんだ?!」

ガイルが叫んだ。

「そんなこと、リジュアだって望まない!」

確かにそうだ。リジュアなら、そうだろう。

だけど………。

リジュアとガイルが引き裂かれるのを見てはいられない。

「サァラ………、本気で言っとるのか?」

長老がしわがれた声で訊いてきた。

「本気です。私でもいいですよね?」

「どのみち、お前達の母親であるミアには辛かろうが………。」

それを承認の意味ととって、私はまた家へと走りだした。

後ろからガイルも、長老の家から飛び出て走ってきた。

「待てよ!サァラ!」

「これでいいのよ。」

私は止まらず家に着いた。

入ると、母とリジュアはうなだれて座っていた。

「お母さん、リジュア。私が行く。」

二人は意味がわからないようで、力の入らない瞳をこちらへ向ける。

「私が贄になる。」

とたんに二人は目を見開いた。

「な、なにを言うのよ、サァラ!やめて!」

リジュアが怒った様子で言う。

「でも、リジュアにはガイルがいる。お願い。」

「そんなこと!許せるわけないでしょ!だめ!」

リジュアは目からポロポロと大きな涙を落としながら私を睨んだ。

すると、

「リジュア………、ガイルと一緒にいなさい。」

それまで黙って聞いていた母が言い出した。

「お母さんまで何を言うの?サァラはまだ18なのよ!?」

顔を向けてリジュアが叫んだ。

「一人では行かせない。私も行く。」

母が言った。

「ええっ!?」

私もリジュアも、後から来たガイルも叫んだ。

リジュアとガイルはさんざん反対したけれど、母の意思はかたく、結局、私を贄として、母も着いていくことになった。
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