守神様の想い人
母と私はその日のうちに長老の家に行き、話をして贄の身代わりを認めてもらった。

帰り道、母が私の手を握り歩みをとめた。

「サァラ。」

振り返る私をじっと見つめ、ゆっくりと話し始める。

「すまない………サァラ………。けっしてお前よりリジュアが可愛いわけじゃないんだよ。………二人とも大事な………っ!」

そこまで言って、涙を流しながら手を握る力を強めた。

「お母さん………わかってるよ………。」

「サァラ、最後まで私が一緒にいる。」

そう言って、自分より背の高くなった私をぎゅうっと抱きしめた。

村は度々、日照りによる干ばつに悩まされた。

ほぼ毎年起こる川の氾濫にのみ込まれないように、川から離れた所に村はつくられていたのだけれど、干ばつに陥れば小さな支流は干からび、水を補給するところがなくなった村はいっきにカラカラになった。

その度に、村から妙齢の女性を、水が湧きだす森の、守神様に差し出す贄の儀式が行われてきた。

贄として森に送られた女性は帰ってはこなかったが、贄を差し出すと直ぐに潤いの雨がもたらされたのだった。


決まってから決行までは早く、翌日には私達は出発することになった。

出発を前にささやかな宴が催され、皆と別れの挨拶をかわした。

ヨシュは泣き腫らした目をむけて、私の手を握る。

何も話さなかったけれど、大の仲良しだったヨシュの気持ちは痛いほど伝わってきた。

私はヨシュに精一杯の笑顔で応えた。

母は村の皆にリジュアたちのことを頼んでいた。

父を早くになくした私達は、村の皆に助けてもらいながら生活していた。

しかし、母も一生懸命働き、ことにつけ、自分の出来ることで恩返しをしてきていたので、村の皆にとっても、母や私達は家族のように大事にされてきたのだ。

村の者たちの中には、贄なんて辞めよう………という者までいたが、それは無理なことだと皆わかっていた。

「さぁ、別れは辛いがそろそろ出立せねば………。」

「サァラ………、お母さん………。」

リジュアとガイルが輿に乗せられた私たちに最後の挨拶をした。

「ガイル………、リジュアのことは頼んだよ。リジュア………、ガイルと幸せになるんだよ。」

そう言って、優しく微笑みながら二人の手を包んだ。

「さぁっ!出発だ!」

先頭の声を合図に進みだす。

だんだん小さくなっていく皆に手を降った。

長老と、リジュアにガイル、村の皆が見えなくなるまで………。
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