御曹司を探してみたら

武久のリードに従って大通りを歩いていると、車のライトとビルの明かりが何だか心に染みて更に泣けてくる。

世の中には沢山の人がいて、男女は同数いるというのに何で私はいつまでもヤケ酒ばかりしているのだろう。

「どこかにいないかなあ……理想の御曹司サマ……」

「お前まだそんなこと言ってんのかよ……」

呆れてうんざりしている武久にカチンときて、無防備だった耳たぶを引っ張って叫んでやる。

「絶対にどっかにいるもん!!」

「うるせっ!!」

ふいをつかれた武久に突き飛ばされ、私はバランスを崩して路上に尻餅をついてしまった。

「何しやがる!!」

ふーふーと逆毛だった猫のような武久を上目遣いで睨みつける。

「理想の御曹司サマはどこかに絶対いるもん!!武久の意地悪!!」

いっつも私のことをバカにする武久なんてこうしてやるんだから!!

えいえいポカポカと短い腕を懸命に伸ばして脚や背中を叩くと、勢いに押されたのか武久が先に降参した。

「いて!!やめろ!!わかったから大人しくしてろ!!」

参ったか!!えっへん!!

うっとおしいと言わんばかりに不機嫌皺が深く刻み込まれたが、こちらとしては敵を駆逐できてすっきりした気分となった。

……が、ふいに吐き気に襲われ手で口元を押さえる。

「う……気持ち悪いっ……」

「うわ、バカ!!まだ吐くな!!」

路上に武久の悲痛な叫びが響いていく。

こんなことで理想の御曹司様に出逢える日が来るの……かしら?

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