御曹司を探してみたら
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「タクシーは地下の駐車場に回してもらえ」
「うん。わかった」
最寄りの駅までタクシーに乗るほどの距離はないが、用心に越したことはない。
パンプスを履きながら、タクシー会社の電話番号と電車の時間を携帯で調べていると武久が済まなそうに頭を垂れた。
「……巻き込んで悪かったよ」
こんなに参っている武久なんて、未だかつて見たことがなくてドギマギしちゃう。
「武久が謝ることないでしょ?元はと言えば私が田辺さんについて行ったのが悪いわけだし。まあ、監視されてるのは気持ち悪いけど、無料のセコムを雇ったと思えばいいし……」
“だから気にしないで”と武久を励ますつもりで続けようとしたその刹那、目の前が武久の着ているTシャツの柄で覆われる。
「お前のことは俺が守るから」
そう振り絞るように囁く武久に抱き寄せられたからだ。
(た……けひさ……?)
何が起こったのかよく分からなくて、声が上手く出てこない。
……何で今まで忘れていられたんだろう。
「腹出して寝るなよ」
ささやかな抱擁は一瞬の出来事で、気が付くといつものように憎まれ口を叩く武久に戻っていた。
トンと肩を押し出されて武久の家の玄関を出れば、23階からは見事な夜景が見えた。
(……武久にキスされたんだった)
頬を撫でていく冷たい夜風に髪をはためかせながら、私はあの日武久がしてくれたキスのぬくもりを思い出すのだった。