御曹司を探してみたら

“話しがあるんだけど”と武久にメッセージを送ると、“家に来いよ”と簡素な文面が返ってきた。

ひとを家に呼びつけるとはいい度胸である。

まあ、外で会うとなるとこの間みたいに誰に見られているか分からないもんね。

私は可及的速やかに仕事を終わらせると、手土産代わりに牛丼を持参して、タワーマンションの23階の豪奢なお部屋のインターフォンを押した。

「よお」

「お邪魔します」

やつのお宅にお邪魔するのも二回目とあって、会社とは異なるラフな装いも見慣れてきた。

ふかふかのビーズクッションに腰を下ろし、テーブルに牛丼を広げると早速武久ががっつく。

「今日、福子夫人が会社に来たの」

「ばーさんが?何しに来たんだよ?」

福子夫人の名前を聞くと器に口をつけガツガツと箸で牛丼を掻きこんでいた武久の箸が止まった。

「一緒にお茶飲んで、武久のことを話して……。困ったことがあったら遠慮なく言ってくれって……それと……」

ううっ!!ダメ!!やっぱりこの先は言えない!!

会社に戻ってから何度も考えたけれど、どうやってもそういう意味にしか捉えられない。

< 118 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop