御曹司を探してみたら

不満たらたらな顔で恨めし気に睨んでいると、武久は伝家の宝刀を振り上げるのである。

「クビになるよりましだろ?」

はい、その通りです。

ごもっともなことを指摘されると、うぐっと押し黙ざるをえない。

「それに嘘は言ってない。あっちが勝手に勘違いして盛り上がってるだけで、適当な時期になったら円満に別れたことにすればいい。どうせ彼氏もいねーし、ちょうどいいだろ?」

ちょうどいいって……一晩の飲み相手を探しているわけじゃないんだから……。

要するに福子夫人の前では5年も皆に隠れて交際を続けてきた健気な恋人を演じろってこと?

「どちらにせよ。もう手遅れだろうしな」

「え?」

不穏な空気が漂ったところで、コンシェルジュ直通の備え付けの電話が不気味に鳴り響いた。

「……来たぞ、嵐が」

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