御曹司を探してみたら
「クソっ!!」
武久は負けたとみると、すぐに悪態をついた。
勝者となった私は飛び跳ねて喜んだ。
へっへーんだ!!武久ってばいつもチョキを出すんだもん。ちょろいぜ。
って、どちらがベッドで寝るかで盛り上がっている場合ではない。
自分でもこの順応性の高さが怖いわ……。
でも、しかたないじゃないか。嘆いたって時間が戻せるわけじゃあるまいし。
とりあえず、届きたての大量のダンボールは生活に必要な物だけ取り出してリビングの端に置いた。
「お風呂借りていい?」
「廊下出てすぐの右の扉だ。勝手に使えよ」
家なき子になった私は早速、家主の恩情に縋るであった。
(妙なことになったなあ……)
私の人生……どこをどう間違えてしまったんだろう。
理想の御曹司サマと素敵な恋をするという夢には破れるし。
実在した周防の御曹司は理想とは程遠い、口悪ヤンキー男だし。
(何だかなあ……)
メイクを落とし、シャワーを浴びて、ダンボールの中から引っ張り出したパジャマを身に着けバスルームから戻ると、武久は毛布にくるまってソファに寝転がって目を瞑っていた。
「おやすみ」
……声を掛けても答えないのは、眠っている証拠である。