御曹司を探してみたら

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「おい、早宮」

わかっちからもらった薬が効いたのか、ようやく頭痛も治って仕事に精を出し始めた11時過ぎのことである。

デスクでキーボードを叩いていると、突如ディスプレイと顔の間に武久のものと思しき手が現れた。

仕事の邪魔をされ、むむっと顔をしかめて武久を見上げる。

「なに、この手は?」

まさか犬みたいにお手をさせるつもりじゃないでしょうね?

「クリーニング代、払え」

「え?」

武久は晴れやかというか、すがすがしいというか、どちらにせよ嫌味たっぷりな良い笑顔で言った。

「昨日、お前がゲロ吹っ掛けたスーツのクリーニング代を払えって言ってんだよ。このボケ!!」

「わざわざそれを言うためだけにここまで来たの?」

「当然だろ?」

2ブロックも先にある自分のデスクからわざわざクリーニング代を求めてやって来たかと思うと、あまりの守銭奴っぷりに呆れてものが言えなくなる。

それだけ迷惑をかけたのだから仕方ないと観念してお財布を取り出し中身を確認するが、お札の数を数えるとあちゃあーっと額に手をやる。

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