御曹司を探してみたら

「あのさ、悪いけど……今、金欠なのよ……。給料日の後じゃダメ?」

あのおっぱい好きの例の男とデートするために勝負服を買ったばかりで、お財布の中はそれはそれは寂しいことになっていたのだった。

テヘペロと可愛くおちゃらけると、武久から怒号が飛ぶ。

「いいから払えや!!払わないなら二度とてめえと飲みになんかいかねーからな!!」

……武久ってばなかなか痛いところをついてくるではないか。

それは困る。正直に言って一番困る。

仕方なく財布の中の千円札に指を伸ばしたところ、武久が手前にあった五千円を勝手に抜き取った。

「樋口様!!」

「確かにもらったぜ~」

武久はしてやったりとニンマリと笑いながら、見せびらかすようにひらひらと五千円を宙に舞わせる。

「か~え~して!!返してよぅ!!」

「返すかバーカ」

武久はムキになって取り返そうとする私の様子を面白がって、樋口様を己の頭上高く掲げた。

こうなると手も足も出ない。

無駄にやつの身長が高いせいで、いくらぴょんぴょんとジャンプしても樋口様には届かない。

(悔しいー!!昨日の仕返しのつもり!? )

サラ金の借金取りだって、もっと優しいんじゃないか?

樋口様が消えるとお財布の中身は一層ひどい有様になってしまった。

給料日まであと一週間はあるというのに、しばらくもやししか食べられそうにない。

シュンと肩を落としていると、その場の雰囲気を変えるような小さな咳払いが聞こえた。


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