御曹司を探してみたら
「何でついてきたんだ?」
武久はコーヒーが零れてしまいそうなほど乱暴にマグカップをテーブルに置くと、私に尾行の理由を尋ねたのだった。
……トモミさんと逢引きしてるんじゃないかって疑っていたなんて口が裂けても言えやしない。
「怒ってる……?」
上目遣いで許しを請えば、額をコツンと指で軽く弾かれる。
「夜中にひとりで出歩くなんて危ねーだろう?襲われても文句言えねーからな」
小突かれた額は全く痛くなかった。
後をつけられたことよりも夜道をひとりで歩き回ったことを心配するなんて武久らしい。
(優しいじゃんかよう……)
淹れてもらったコーヒーを飲む振りをして、赤らんだ顔を隠して誤魔化す。
(これしきのことで赤くなるなんて……私の身体はどうかしちゃったの!?)
急に訪れた身体の異変に本格的に悩みだし始めた時、締めきられていたミーティングルームの扉が突然開いた。