御曹司を探してみたら

「大学を卒業した後は皆バラバラになって就職したんだけど、やっぱりあいつらと仕事してみたくなってさ。2年前に実家の工務店を継ぐときにあいつらも誘ったんだ」

緒方さんは事もなげに語るが、安定した収入のある会社勤めの元仲間達に自分の会社に来てくれって誘うのはとても勇気がいることだと思う。

もちろん、緒方さんの誘いに応えた元仲間達もすごい。

「あれ?でも、武久は……?」

武久はカルテットではなく未だに周防建設で働いている。

そのことに気が付いて独り言のように呟くと、緒方さんは困ったように微笑んだ。

「あいつの場合、周防の後継者問題に決着がつかないとどうにもならないからな……。表立って周防社長に逆らうのはあまり賢いやり方ではないだろうし」

「知ってるんですか!?」

「まあね」

じゃあ、緒方さんは武久が周防の御曹司だって知ってて誘ったってこと!?

突拍子もない行動の意図を図りかねて、私はまたしてもう~んと悩み始めてしまった。

すると、緒方さんはクスクスと声を上げて笑い出したのである。

「正直、俺達は永輝が周防の御曹司だろうがさして構わないんだよ。本人を目の前にしてあーだこーだと悩む方が馬鹿らしいだろ?」

ニコニコと柔和な笑顔を浮かべるその裏の底知れぬ器の大きさに愕然としてしまう。

そして、自分が情けなく思えてならなかった。

……私は武久が御曹司だと分かってから悩んでばかりだ。

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