御曹司を探してみたら

「本当は大学を卒業したら留学して、あっちでも建築の勉強をする予定だった。それを親父に邪魔されて、強引に周防建設に入社させられた」

よほど悔しい思いをしたのか、コーヒーを握る手に力がこもる。

周防社長なら息子の意向を悪びれなくシカトしそうである。

「嫌で嫌で仕方なかったよ。傲慢な親父に従うしかないのかって心底吐き気がした。だから会社では周防とバレないように母親の旧姓を名乗ってた」

「緒方さんのところには行こうと思わなかったの?カルテッドで働かないかって誘われたんでしょ?」

武久の眉間の皺が深くなっていくばかりで、たまらず口を挟む。

「跡継ぎ問題に決着をつけない限り、親父がカルテットを潰しにかかるってことは予想できる。まあ、会社を辞めない代わりに、多少の出入りは大目に見てもらってるみたいだしな」

「それで……いいの?」

ずっと不思議に思ってたんだ。

周防社長と折り合いの悪い武久が大人しく周防建設で働いていたこと。

窮屈な想いをしてもそれでも挫けなかったのは、いつの日かカルテットで緒方さん達と働くことを夢見ていたからに違いない。

「早宮が気にすることじゃないだろ?」

武久はそう言ってグシャグシャと私の頭を撫で回した。

(……違うんだよ、武久)

武久は分かってるんだ。

武久の自由を奪っているのは周防社長だけじゃないって分かっていて、庇ってくれてるんでしょ?

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