御曹司を探してみたら

(ちょっと嬉しいかも……)

今の武久の一部を形作っているのは私ってことだよね?

予期せぬところで武久の人生に大きく関わっていたことに得も言われぬ感情が湧き上がってくる。

私はそれを誤魔化すように、缶コーヒーをゴクゴクと一気に飲み干した。

「つまり、何が言いたいかというと……。バカでどうしようもないけどいつも一生懸命なお前が……俺は……。俺は……」

これまでよどみなく話していた武久の歯切れが急激に悪くなり、ついには黙りこくってしまった。

「どうしたの……?」

尋常じゃない様子が心配になり武久の顔を覗き込むと、その瞳がふいに揺れた。

「ああ、ちくしょう!!」

やけくそとばかりの叫び声とともに、視界が武久の顔で埋めつくされる。

……二度目のキスはコーヒーの味がした。

押し当てられ唇が離れた瞬間に感じたのは、幾ばくかの喪失感だった。

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