御曹司を探してみたら

ひたすらうろたえている私の様子を拒絶と捉えたのか、武久は小さく息を吐いた。

「頭冷やしてくる。先に帰ってろよ」

ひとりにしようとしてくれているのは、武久なりの気遣いなのだろう。

武久は空き缶をゴミ箱に捨てると、そのままどこかへと歩き出していった。

……まるで、私達の別れを予感させるようだった。

ずっと……理想の御曹司サマと結ばれることを夢見てきた。

もし、最初から武久が周防の御曹司だと分かっていたら。

果たして私はこんなにも切ない想いを抱くことがあっただろうか。

……答えはノーだ。

遅かれ早かれ訪れる別れを想像するだけで寂しさを覚え、触れるだけのキスに一喜一憂する。

ただの憧れでは終わらないこの感情に名前をつけるとしたら……。

「待って!!」

私はベンチから立ち上がると、目一杯声を張り上げて武久を制止した。

「どうした?」

どうしたもこうしたもないわよ!!

立ち止まった武久の元へ走ってきた勢いそのままに、首根っこを引っ掴んで強引に唇を重ね合わせる。

「言い逃げなんて……卑怯じゃない……」

……もう、ただの同僚には戻れない。

私も武久のことが好きなんだ。


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