御曹司を探してみたら
「あと1時間で終わらせろ。でなかったら今度は樋口じゃなく、諭吉をもらっていくからな」
樋口様だけでなく諭吉まで!?
冷酷無慈悲な宣言に、思わずひいっと悲鳴を上げる。
武久は私から押収した樋口様をポケットにしまうと、自分のデスクへと戻っていった。
悔しさに地団駄踏みながらわかっちに訴える。
「ちょっと聞いた!?あの男ひどくない!?」
「わかってないねえ、杏は」
わかっちは一蹴すると、ぷいっとパソコンの画面に目線を戻してしまった。
(くっそう……武久のやついつか絶対ギャフンと言わせてやる!!)
そう心に誓うと、私はお仕事熱心なわかっちにならってパソコンに向かい直った。
ふうっと息を吐きだすと、猛烈な勢いでキーボードを叩きだす。
こうして、悲惨な結果に終わった恋はいつも振り返られることもなく、いつの間にか忘れ去られていくのであった。