御曹司を探してみたら
武久と同僚以上の関係になれたのは、福子夫人のおかげと言えなくもない。
福子夫人には本当に頭が上がらない。
私が未だにクビを言い渡されていないのは、福子夫人のおかげだと武久も言っていた。
ということは……。
(福子夫人は武久の味方だって思っていいんだよね……?)
もし、私の予想通りなら千載一遇のチャンスなのかもしれない。
無謀、無鉄砲でも『武久を解放してください』とお願いしてみる価値はある。
発言力のある福子夫人に口添えしてもらえれば、この不毛な後継者争いにきっと終止符を打てる。
上手くいけば武久は晴れて自由の身だ。
(落ち着け、私……!!)
無礼は覚悟の上である。
今の私を突き動かしていたのは武久のために何かしなきゃという使命感であった。
しかし、その意気込みはすべて無駄になる。
「実は、杏さんに折り入ってお願いがあるの」
……狙いすましていたかのように福子夫人に先手を打たれてしまったからだ。
「周防建設に残るように永輝を説得してくれないかしら?」
福子夫人は期待を込めたまなざしで、切々と私に訴えた。