御曹司を探してみたら

「私は武久には周防の御曹司であることよりも……武久らしくいて欲しいです」

物語に登場するスーパーダーリンは、決して現実の私には手を差し伸べてはくれない。

その代わりにぶつくさ文句を言う等身大の武久の手を掴むんだ。

「私には彼を説得することはできません。申し訳ありません!!」

私は福子夫人に対して、謝罪に意を込めて深々と頭を下げた。

「そう……。なら仕方ないわね。ごめんなさいね。無茶なことをお願いして」

これ以上口説くのは不可能だと察したのか、福子夫人はすっかり肩を落として帰っていった。

(悪いことしちゃったな……)

恩を仇で返す所業に罪悪感を覚える一方で、不思議と気分は晴れ晴れしていた。

お昼を食いっぱぐれてしまった私は、空腹できゅーきゅー鳴るお腹を宥めながら午後の業務に勤しんだのだった。

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