御曹司を探してみたら

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「早宮さーん」

甘ったるい声色で名前を呼ばれ、パソコンから顔を上げると今野先輩がニッコリと微笑みながら隣に立っていた。

くねくねとよく動く腰つきとド派手なルージュ、掻き上げた前髪が特徴の今野先輩は良い意味でも、悪い意味でも“イマドキの女子”である。

学生時代はモデル業にも勤しんでいたという意匠設計部きっての美人はスタイルも良く、仕事もできると憧れている女性社員も多いらしい。

「どうだったの?昨日のデ・エ・トは?」

デートのことをうっかり話してしまったのが間違いのもとである。

こちらが触れたくない話題であると沈黙で示してみても、今野先輩は気づいてくれなかった。いや、あえて気づかない振りをしているのかもしれない。

「振られちゃいましたよ……」

今野先輩に構っている時間はないとばかりに画面に視線を戻す。

何が悲しくて今野先輩に失恋報告をせねばならないのだ。

男性に不自由したことがないと常日頃から豪語している今野先輩に失恋したての私の気持ちなど欠片もわからないだろう。

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