御曹司を探してみたら
「んだ、これ?」
「マカロン」
「なんでそんなもんがお前のバッグから出てくるんだよ?」
武久はそう言うと怪しがって、まるで危険物のように慎重に化粧箱をつついた。
「お昼休みに福子夫人にお茶をご馳走になったの。帰り際にお土産にどうぞって渡されたのよ」
どうせすぐにわかることだろうと正直に白状すると、武久は箱を開けマカロンをひとつつまんで言った。
「あのばーさんもよくやるよな。お前の気を引くためにこんなもんまで仕込むか?」
……私の気を引くためというよりは武久と周防建設のためじゃない?
うっかり口にしてしまいそうになって、寸でのところで喉の奥に押し込む。
「コーヒーでも淹れるね」
食事は微妙な出来でも、コーヒーぐらいは淹れられる。
キッチンに立ちポットに水を入れお湯を沸かしている間にフィルターにコーヒー豆をセットする。
5分も経たないうちに給湯口から湯気が立ち上り始めた。
(これから……どうしようか……)
ゆらゆらと昇っていく湯気を眺めながら、かつてない程の自己嫌悪に陥ってしまう。
“お願い”を断ってしまった以上、もう福子夫人には頼れない。
それどころか喧嘩を売ったようなものだもんなあ……。
私の存在は武久にとってお荷物にしかならないということがとことん身に染みる。