御曹司を探してみたら

“永輝を破滅させるのは僕ではなく……君の役目さ”

いつかの田辺さんのセリフが更に暗い影を落としていく。

このままじゃダメってことはわかっているのに、どうしていいのか分からないよ……。

なにより困るのがどれだけ迷惑かけているとしても武久と離れがたいってこと。

もう!!何であんなややこしい奴を好きになっちゃったんだろう!!

私のバカっ!!アホっ!!マヌケっ!!

自分で自分を軽く罵りながらポットの取っ手に手をかける。

そうやって余計な考えを巡らせていたせいか、ポットを動かした拍子に給湯口からお湯がこぼれて左手にかかってしまった。

「熱っ!!」

「早く冷やせ!!」

武久は叫び声を聞きつけると、素早くキッチンの水道の蛇口をひねり私の左手を水に浸した。

「ドジにもほどがあるだろ……」

「ごめん……」

う〜っ!!こんなはずじゃなかったのに……。

しきりに反省しながら水がジャージャーと排水口を流れていくのを黙って見つめる。

ひりひりとした痛みが次第に遠のいていくと、今度はシンクと武久に挟まれた密着体勢にそわそわしてしまう。

< 182 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop