御曹司を探してみたら

「ふうん……。君が描いたの?なかなか上手いね」

田辺さんは私の肩にポンと手を置き、背後からラフ画をしげしげと眺めていた。

(うわ……最悪……)

そりゃあ同じ会社にいるわけだから、遭遇しないわけないんだけどさあ……。

なんでこう……ひとりでいる時に限って出くわすの!?

私は肩に置かれた手を即座に振り払って、不愉快さを一切隠さずに言った。

「何か御用ですか?」

「そう邪険に扱わないでくれる?」

「邪険に扱われるような心当たりがおありでしたら、今すぐ回れ右して頂けませんか?」

シッシと犬を追い払うように、手を上下に振る。

これだけ無下に扱われたら普通は怒って退却しそうなものだけれど、ここから田辺さんは驚異のしつこさをみせる。

「手厳しいな。まあ、そういう率直なところが永輝に気に入られた理由かな?」

……この人の前世はクモだな。

私がどんなに嫌味を言おうとなんのその、田辺さんは顔色ひとつ変えず余裕綽々で言うのだった。
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