御曹司を探してみたら
「福子様が会いに来ただろう?」
なんで知っているの……?
私は思わず立ち止まり、田辺さんの話に耳を傾けてしまった。
いや、この場合傾けざるをえないような状況にさせられてしまったと言うべきか。
「会社の前なんて目立つところで話をするからだ。僕のところまで噂が回ってきたぞ。一体ふたりきりで何を話していたのかな?」
「別に……大したことは話してないです」
私が素直に答えるなんてはなから期待していないのだろう。
田辺さんは距離を詰めると、私を壁際に追い込んで右腕をついた。
「まあ、福子様の用件なんて大体予想がつくけど。志はご立派な方だからね」
私の髪をひと房とってクルクルと弄び、どこか楽し気に微笑む様子は悪戯をたくらむ子供のようだった。
「永輝を自由にしたいなら、協力してやろうか?」
協力ですって……?
田辺さんが言うと、そこはかとなく胡散臭い匂いがプンプンしてくる。