御曹司を探してみたら
突如として部長に呼び出されたのは、田辺さんと例の契約を交わしてから数日後のことだった。
「田辺くんのチームが人手不足で困っているそうだ。勉強にもなるし、早宮さんさえ良ければ加わってみないか?」
何も知らないであろう部長は懸命に田辺さんのチームに異動することの意義を語った。
部長が田辺さんに丸め込まれたのは明らかである。
田辺さんのチームといえば大きなプロジェクトをいくつも成功させている、周防建設の顔ともいえる花形チームである。
正式に人員を募れば、希望者はいくらでも手を挙げる。
優秀な人は他にいくらでもいるのに、私をわざわざ指名したのは田辺さんの入れ知恵だろう。
「わかりました」
私がそう答えると、部長は安堵の表情を浮かべた。
デスクの移動と荷物整理を指示され、粛々と承知する。
(何を企んでいるかわからないけど上等よ!!)
……こうして私の異動はトントン拍子で決まったのである。