御曹司を探してみたら
「そっかあ……。残念だったね」
「お気遣いどうも……」
形ばかりの慰めの言葉を有難く頂戴したところで、本題に入る。
「落ち込んでいるところ悪いんだけど、あとでこの書類を皆に配っておいてくれる?」
「分かりました」
「ふふふ。次は上手く行くといいね」
今野先輩はそう言うと、腰をくねくねさせながら自分のデスクに戻って行った。
今野先輩が歩いた後の、香水の残り香を嗅ぎながらはあっとため息をつく。
残り香でも女としての格の違いを見せつけてくる。
「いいなー。“マドンナ”は……どんな男もころっとイチコロって感じで。きっと“胸が小さい”からというふざけた理由で振られたりすることはないんだろうな……」
「“マドンナ”だもんね」
私の僻みを聞いて、わかっちが苦笑いで答える。
皆の憧れ今野先輩。ついたあだ名はマドンナ。まあ、そのまんまの意味である。
「マドンナに落とせない男なんてこの世にいるのかな……」
「探せばいるんじゃないの?」
わかっちはそう言うけれど……マドンナのモテっぷりは半端じゃない。
美人で有能で。とにかく自分への自信に溢れている。
取引会社の専務とか、お医者様とか、スポーツ選手とか。彼女の周りには華やかな噂が絶えない。