御曹司を探してみたら
デスクに戻ると、手早く荷物をダンボールに詰め始める。
田辺さんのチームは意匠設計部の中でも特別扱いで、他のチームが10階のフロアを共用で使っているのに対して、9階に専用ブースを与えられている。
そのおかげ荷物の移動も一苦労である。
特別扱いでもやっかみや嫉妬の声が聞こえてこないのは、それだけ実績を上げているということだし、会社から期待されているということだ。
「杏!!田辺さんのチームに行くって本当!?」
荷物をあらかた詰め終わったところで、打ち合わせのため外出していたわかっちが戻ってきて、息を弾ませながら私の元に駆け寄ってきた。
「うん、本当。急に決まってさ」
「本当に急よ!!このおバカ!!」
わかっちは今生の別れとばかりに私をぎゅうっと抱き締めたのだった。
「たまにはこっちのフロアにも遊びにくるのよ」
「行く行く!!」
「虐められたらすぐに言うのよ?」
「はいはい!!」
わかっちてば心配性なんだからっ……!!
わかっちの豊満なバディと離れるのは少々名残惜しいが別れの挨拶もそこそこにしておく。
私はよっこいせとおばちゃんのような掛け声でダンボールを抱え上げて、10階の意匠設計部のフロアを後にしたのだった。