御曹司を探してみたら

「早宮っ!!」

わかっちの次は武久か……。

廊下を一目散に走ってくる武久を覚悟をもって待ち構える。

武久は周囲に人がいないことを確認すると、私を埃っぽい資料室に押し込んだ。

「よりにもよって田辺のチームに異動ってどういうことだよ!!」

武久は資料室に入るなり、バンッとやつ当たり気味に壁を叩いた。

「上司命令だもん。仕方ないよ」

ダンボールを床に下ろして、怒り心頭の武久をなだめる。

「あいつの下で働くって意味わかってんのか!?今からでも遅くないから断れよ!!」

……理性的な武久らしくない無茶な要求である。

「バッカじゃないの!?断れるわけないでしょ!?」

「田辺に直談判してくる」

武久は完全に我を失っていた。

私を資料室に連れ込んだ勢いそのままに、本当に田辺さんに直談判しそうだ。

「もう!!やめなさいってば!!」

聞き分けのない武久を、背後から羽交い締めにして決死の覚悟で引き止める。

武久ってこんなに頑固だっけ!?

「俺はお前を心配して……っ!!」

「とにかく!!武久は口出ししないで!!田辺さんのチームに行くことは私が決めたの!!」

武久はいまだに納得していないようだったが、これ以上は構ってはいられない。

武久に邪魔される前に私はダンボールを抱え直して、そそくさと9階に向かったのだった。

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