御曹司を探してみたら

「早宮さんはこちらのデスクを使ってください。パソコンはこれ。ソフトのインストールは済んでますから」

チームに合流してから右も左もわからない私に、あれこれ親切に世話を焼いてくれたのは、チームの中で最も若い真面目を絵に描いた黒縁メガネのおぼっちゃまタイプの男性だった。

「親切にありがとう。ええっと……」

「井上です。このチームでは一番の下っ端です」

「ありがとう。井上くん」

田辺さんの毒にさらされ続けていた私にとって、純朴そのものの井上くんの存在はさながら砂漠の中のオアシスのようだった。

「いいえ。むしろこちらがお礼を言いたいくらいですよ。早宮さんがきてくれて本当に助かります。最終プレゼン前に急遽クライアントがデザインを大幅に変更したいって言い出して困っていたんです。僕も他の皆さんも正直手一杯で……」

田辺さんから託された資料で、おおよそのプロジェクトの概要は掴むことが出来ていた。

県庁所在地に新設するスタジアムの設計・施工。受注に至れば何百億円もののお金が動く。

私は井上くんに言って、早速コンセプトプランを見せてもらうことにした。

< 194 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop