御曹司を探してみたら

「これ……田辺さんが作ったの?」

持ってきてもらったプレゼン資料を見て、私はその完成度に思わず唸ってしまった。

「ところどころ僕が手伝った部分もありますけど、8割方は田辺さんが自ら設計されてます。プロジェクトの発足から1年がかりでようやく最終プレゼンまでこぎつけたんです」

井上くんが自分のことのようにどこか誇らしげなのは、相当な田辺信者だからだろう。

私が手を加えるところなんてひとつも見当たらないじゃないか?

「私に任せるよりも自分でやった方が良いんじゃ……」

「それはさすがに無理ですよ。競合コンペがこの後3本も控えてますから」

「え!?」

3本も!?信じられない……。

井上くんはキョトンと無垢な瞳で当然のように言い放つのだった。

「田辺さんは常時5~8本ぐらいのプロジェクトを同時進行で動かしていますよ」

マジかよ……。

私は絶句してしまった。

とても常人の働き方でない。仕事が出来るということは、こういうことなのか。

私はゲス野郎としか認識していなかった田辺さんの評価を少しだけ改めたのだった。

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