御曹司を探してみたら
「あーあ……」
新品のノースリーブのワンピースも、塗り直したピンクのネイルも、ピカピカに磨いたハイヒールも。
彼に会う為に一週間前から念入りに準備していたのに!!
全部、パー!!
(この溜まりに溜まった恨みの数々を一体どうしてくれよう……)
私に残された手段はもはや忘れ薬代わりのお酒だけである。
……だってビールは私を裏切ったりしないもんねー。
いじけてグスンと鼻をすすると、自暴自棄に拍車をかける。
明日は平日、仕事だというのに脇目もふらず、テーブルに運ばれてきたジョッキを次々と空にしていく。
ふと我に返り、泡ばかりが残ったグラスに映る己の顔を見れば、酔っ払い特有の赤ら顔で。その哀れなことといったら、筆舌に尽くしがたい。
「ふふ……ふふふ……あは、あはははは!!」
思わず湧き出た乾いた笑いがなんとも痛ましい。
まったく失恋というものは恐ろしいものである。
普段は大人しくて、か弱くて守ってあげたい独身女性ナンバーワン(自称)の早宮杏様をここまで追い込むとは……。
ううっと半べそをかきながら、おつまみの焼き鳥を箸で串から剥がそうとすると、これまで頑なに沈黙を守っていた隣の男にスパーンと丸めた新聞でいきなり頭をはたかれた。