御曹司を探してみたら
15.秘密主義の男
朝、9時。
出社する社員もまだまばらなこの時間帯に、私と井上くんは田辺さんによって会議室に集められていた。
田辺さんの手元には昨夜ほぼ徹夜で仕上げた、例のスタジアムのコンセプト修正案が収められている。
こうして田辺さんにレビューしてもらうのは一体何度目であろうか。
5回を越えたあたりから、もはや数えていない。
私と井上くんはほぼ直立不動で田辺さんの表情を窺っていた。
早朝の会議室には、チクタクと時計の針が進んでいく音が響き渡る。
資料がハラリハラリとめくられていく度に、私の身体が徐々に強張っていった。
今度こそは、と意気込む度に無情にも却下を食らい続け、無能のレッテルは貼るところが見つからない程である。
(今日こそはOKがもらえますように!!)
自分で言うのもなんであるが、今回の修正案は会心の出来である。
……これでボツならもう諦めるしかない。
(ううっ!!お願い!!)
そんな、必死の願いが届いたのだろうか。
田辺さんは一通り資料を確認し終えると、紙束をテーブルの角でトントンと整え、こう言った。
「……いいでしょう。これで進めてください」