御曹司を探してみたら

「早宮さん」

引き留められたのが私一人だとわかると、目で合図して先に戻るように井上くんに合図を送る。

井上くんが会釈して退室したのを確認すると、クルリと踵を返して田辺さんに向き直る。

「はい。何でしょうか?」

「……どうして猫なんだ?これまでの修正案から、大胆に方向転換したじゃないか?」

単刀直入すぎる質問に、ついギクンと肩が震えた。

採用されたスタジアムのコンセプトはズバリ、“猫”である。

武久と行った遊園地で見た猫ちゃんから着想を得たなんて田辺さんには死んでも言えない。

「ほら、日本人は猫好きが多いじゃないですか?田辺さんだって嫌いじゃないでしょ?」

「……まあね」

悪いことをしたわけでもないのに妙に後ろめたいのは、武久から田辺さんの境遇を聞いたせいなのか。

田辺さんは猶も怪訝そうにじろじろと私の作り笑いを見つめていたが、やがて諦めたようにため息をついた。

「時間がないから作業は手早くかつ、正確に」

「はーい」

「返事は短く」

「はい!!わかりました!!」

新人をしごく鬼教官のようなセリフも、捨て猫を引き取るなんて、いいところもあるじゃんと思えば耐えられなくもない。

私は早足で9階の専用ブースに戻ると、井上くんとともにコンペ資料の作成に取り掛かったのだった。

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