御曹司を探してみたら


田辺さんのGOサインが出たことで、事態は一気に進んでいく。

最終コンペまでに残された時間はごくわずか。一分だって無駄にはできなかった。

サポートに回ってくれる井上くんと一緒にコンセプトと図面をまとめて、田辺さんと打ち合わせして、また修正して……。

栄養ドリンク片手に毎日が目まぐるしく過ぎていく。

確認すること、決めなければならないことは山ほどあるのに、不思議と苦ではなかった。

やるべきことの方向性が決まると、これまで煮詰まっていたのがウソのように、アイデアが溢れ出して止まらなくなった。

この時ばかりは周防建設のことも武久のことも忘れて、無我夢中になって激流の中、小さな笹舟の舵を取る。

溺れないように、取り残されないように、もがきにもがき、時には流されながらも。

……こうして私は、やっとの思いで対岸にたどり着くことができたのだった。

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