御曹司を探してみたら

「終わった……」

「終わり……ましたね……」

最終プレゼンが終わり営業先から帰る途中、私と井上くんはすっかり茫然自失となっていた。

「今日はこのまま家に帰って、ゆっくり寝ると良いよ」

私達を労う田辺さんは、先ほどまでうん十億円という金額を操っていたとは思えないほど軽快である。

最終プレゼンはおおむね好評に終わり、あとは競合他社のプレゼンをもって精査され、後日返事が来ることになっている。

……やるだけやった。

あとは泣いても笑っても、結果待ちである。

「じゃあ、僕はこれで」

バッグを胸に抱えながらしみじみとこれまでの苦労の日々を振り返る私とは対照的に、田辺さんはあっさりそう言って別れの挨拶もそこそこに地下鉄の出入り口に消えていく。

プレゼンの余韻を一切残さないその様子を薄情に思っていると、井上くんがそっと私に耳打ちした。

「知ってますか、早宮さん。田辺さん、これから別件の打ち合わせがあるんで会社に戻るんですよ……」

「うっげえ……」

井上くんは仕事中毒とも言うべき田辺さんの後ろ姿に、尊敬の眼差しを向けていた。

社長になろうという人はこれぐらい超人でなければいけないのか?

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