御曹司を探してみたら
エレベーターに乗り込んで古巣である意匠設計部のある10階のボタンを押して、ふうっと息をはく。
この喜びをまっさきに伝えたいのは、不愛想だけど面倒見がよくって心配性のあいつに決まっている。
武久はどんな反応をするだろう?
よくやったなって褒めてくれる?
それとも、調子に乗るんじゃねーよって悪態をつく?
武久の反応を想像するだけで、ワクワクが止まらなくなって困ってしまう。
エレベーターが目的の階に停止するとその思いは一層強くなった。
浮かれてふらふらしていたせいか扉が開いた瞬間にエレベーターに乗り込む人とすれ違いざまに鼻をしこたまぶつけてしまう。
すみませんと謝っている声に聞き覚えがあり、涙をにじませながら相手の顔を見上げる。
「あ、わかっち?」
「杏!!」
そんなに急いでどこにいくのか聞く前に、わかっちが私の肩を両手でガシリと掴んだのである。
「杏は知ってたの!?」
「へ?」
挨拶はそこそこに意味も分からないままエレベーターから引きずり降ろされる。
「これよ、これ!!」
わかっちはポケットから携帯を取り出し、私にとある若手建築家を対象としたコンクールの入賞発表のサイトを見せた。
言われるがままに画面をスクロールして出てきたのは、思いもしない名前だった。