御曹司を探してみたら
“優秀賞 武久永輝 (株式会社カルテッド)”
「武久……?」
武久の名前が出てきたことが信じられなくて、文字が上滑りしたようによく見えなくなる。
「今、意匠設計部中が大騒ぎになってる……」
わかっちはひどく青ざめていて、意匠設計部の混乱の程が窺える。
「私……こんなの知らない……!!」
なんで武久の名前が?同姓同名の間違いじゃないの?
武久がコンクールに応募していたことなんて聞いていない。
大騒ぎになるのも無理はない。
これが問題なのは、私のちっぽけな頭でも理解できる。
他社の名義を使って無断でコンクールに応募するなんて常軌を逸している。
ましてや武久は周防の御曹司なのに……。
「武久は!?」
「社長室に呼ばれたっきり、まだ戻ってきてない……」
社長室に呼ばれているということは周防社長もこの件を把握しているということなのか。
だから、朝から田辺さんがブースにいなかったわけかと合点がいく。
「杏っ!!待って!!」
私は居ても立っても居られず、わかっちの制止を振り切り今度は社長室へと走り出したのだった。
(武久っ!!)
どういうことなの……っ?
なぜいつも私は肝心なことは後から知らされてばかりなのだろう。