御曹司を探してみたら
騒騒しい業務フロアと異なり、社長をはじめとする役員の執務室が集うフロアはシンと静まり返っていた。
私は執務室フロアの最奥にある社長室と書かれたプレートを睨みつけた。
執務室と廊下と隔てる重厚な扉は、まるで武久を閉じ込める牢屋のようだった。
そして、扉を守る門番は朝から姿が見えなかった田辺さんである。
「永輝が社長室に呼ばれたこと、誰かに聞いたのかな?」
田辺さんは私がやってきたことに気が付くと、はあっと盛大な溜息をついた。
「まったく……あいつにはしてやられたよ。まさかこんな常識外れのやり方をするとは思わなかったな」
案に武久を非難している田辺さんに怒りがふつふつと湧いてくる。
場所が場所でなかったら強行突破せざるを得ない状況に追い込んだのは一体誰なのかと、小一時間問い詰めてやりたいくらいだ。
「永輝ならもうじき出てくるだろうから、ここで待っていたら?」
「ご親切にどうも」
そう言ってその場を離れようとする田辺さんに、伝えておかねばならぬ用件があったのを思い出す。
「さっきクライアントから連絡がありました!!採用決定だそうです!!」
「ああ、わかった」
田辺さんは至極当然のように言い放つと、ちょうど執務室フロアにやってきた井上くんとともにブースに戻っていった。
あの人はこれしきの事では取り乱したりしないのだ。