御曹司を探してみたら
田辺さんの言うように10分ほど廊下で待っているとかすかな話し声の後、扉が開いて中から武久が出てきた。
「早宮……」
武久は私を見るなりビクリと身構え、驚いた表情で口元を手で覆い隠した。
「あ、あのっ!!コンクールのこと、わかっちから聞いて……それで……」
言いたいこと、聞きたいことはいっぱいあるはずなのに、いざ本人を前にしたらなんて言っていいのかわからず、モジモジと言葉を濁してしまう。
それは武久も同じらしく互いに次の言葉が見つけられないまま、人気のない廊下に空調の空虚な音だけが響いていく。
「カルテッドに通っていたのは、コンクールに出品するためだったの?」
「……ああ。友海に色々と手伝ってもらってた」
それでは、私が武久の後をつけてカルテッドに行った時には、既にコンクールに向けて準備を進めていたということだ。
武久ってば尾行されて内心焦っただろうな……。