御曹司を探してみたら

「早宮さん!!メールの送信先間違ってますよ」

「あ……!!」

井上くんからの指摘を受けてメールの送信先を今一度確認すると、クライアントへのメールを誤って井上くんに送っていた。

重大なミスにもつながりかねない間違いに、普段は温和な井上くんも語気を強めて尋ねる。

「本当に大丈夫ですか?」

「うん。ごめんね、井上くん」

ミスの理由を聞かれないのは、ひとえに井上くんの人柄のおかげだろう。

武久が周防建設を辞めたにも関わらず、私が会社に残っていることで様々な憶測が流れた。

用済みになった武久を私が振ったとか、周防建設を継がずに私のヒモになったとか、赤字続きの周防建設を継ぐのを武久が嫌がったとか。

どれも事実とはかけ離れていて、傷心の私にはきついものだった。

唯一の心の拠り所である仕事もほとんど身が入らず、忙しくすればするほど心だけが乖離していった。

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