御曹司を探してみたら

「どうぞ」

武久のように上手に淹れられないコーヒーをテーブルに置いて、私は改めて武久のお姉さんと差し向かいでダイニングテーブルに座りあった。

「ありがとう」

武久のお姉さん……周防春子さんはコーヒーに口をつけ、大して美味しくもないのに律儀にお礼を言うのであった。

植木の影から盗み見した通りの淑やかさと気高さは間近で見ても変わらない。

初対面であるはずなのにどこか親しみを感じるのは武久の身内だからなのだろうか。

「弟さんなら帰ってきていませんけど……」

春子さんがなぜここにやってきたのか理由を聞くのも憚られて、遠回しに話を進めようとする。

「いいのよ。今日はあなたに一言謝りたくてここまで来たの」

春子さんは間髪入れず本題に入ると、カップをテーブルに置いて私に頭を下げたのだった。

「ごめんなさい。身内の諍いにあなたを巻き込んだこと、周防一族を代表してお詫びするわ」

詫びるって何を?

散々振り回しておいて、今更謝られたって困ってしまう。

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