御曹司を探してみたら

「いいんです、もう……」

丁寧なお詫びの言葉に反発を覚えて、子どものようにムキになる。

武久はきっと二度とこのマンションには戻ってこない。

(私は……ただ……)

……武久の傍にいられればそれで良かったのに。

もう二度と戻れない日々が宝物のように大事だって今さら気がつくなんて。

「もう遅いんです……」

春子さんに謝られたことで、かろうじて残っていた理性の糸がプツリと切れてしまった。

泣いてはダメだと思っているのに、堰を切ったように思いが溢れて止まらない。

「あいつのこと好きだったはずなのに、周防の御曹司の俺が好きなんだろうって言われた時、違うって答えてあげられなかった……」

ずっとあの日の行動を後悔していた。

引き留めることさえできなかった私に武久を好きだって言う資格はない。

受け入れることも出来ず、かといって開き直ることも出来ず、いつか戻ってきてくれるんじゃないかと、この部屋に居座ってむなしい希望を抱き続けている。

浅ましくて自分で自分に嫌気がさす。

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