御曹司を探してみたら
「まだ間に合いますかね?」
「ええ、もちろん。あなたが永輝を愛しているなら、遅いなんてことないわ」
“愛”というドラマチックな響きに、私は目をパチクリと瞬かせた。
「御曹司である永輝が好きなら、今こんなに悩んでいるはずないじゃない。これが愛じゃないなら何なの?」
春子さんは私を励ますようにクスクスと微笑み、ウインクまでしてみせた。
まさに目から鱗が落ちるようである。
これまで悩んでいたのが嘘みたいに視界が明るくなって、全身に力が湧いてくる。
ねえ、今ならまだ切れてしまった赤い糸を手繰り寄せることができるかな?
ううん。他人に頼るなんてことしたくない。
自分の糸は自分で紡いでみせる。
だってそうでしょう?
物語の中の主人公たちは自分の力で素敵な御曹司様を手に入れてきたんだから。
「あの……福子様に伝えていただけますか?」
私は目尻に浮かんでいた涙を手の甲で拭って、春子さんに己の決意を表明したのだった。
「“私をクビにしてください”」