御曹司を探してみたら
「田辺さんと仕事が出来てとっても楽しかったです」
それが、例え自らの欲望のためだとしても、私にとってかけがえのない財産になった。
あれほど毛嫌いしていたのにこの腹黒い面が拝めなくなると思うと寂しさすら感じてしまいそう。
「本当に強情だな、君は」
田辺さんはため息をつきながらそう言うと、私に一通の茶封筒を差し出したのだった。
「何ですか?これ……」
「餞別だよ」
「まさか呪いの手紙じゃないですよね?」
もう一生分の幸不幸を味わったんだから、そういうの要らないんですけど?
この期に及んでとんでもない爆弾を投下する気なのかと気が気でなくなる。
「くだらないことを言うなよ」
田辺さんは思い切り眉をしかめ、呆れを通り越し憐憫の表情で私を見下ろした。
そういえば呪いの手紙に頼らなくても、自らの手で呪いを振りまくタイプの人でしたね。
胡散臭いことこの上ない封筒をしばし眺めるが、田辺さんはなおもしつこく押し付けてくるので、仕方なく封筒を受け取ってバッグにしまう。