御曹司を探してみたら

デスクの片づけが終わりいよいよ最後の時がやってくると、田辺さんが再び口を開いたのだった。

「結局、君は最初から最後まで僕の見込んだ通りの人物だったね。思慮が浅くて、単純。直情的で無計画……」

「怒らせたいんですか?」

この期に及んでの嫌味のオンパレードに辟易するが、後から付け足されたセリフで心証が一変する。

「……けれど、最後まで永輝を裏切らなかった」

まさか……褒めているつもり……?

あれが賞賛の聞こえたのなら、私もまた田辺さんに毒されているに違いない。

「今度永輝に会ったら、“頑張れよ”って言っておいてくれる?」

とってつけたような励ましの言葉が、ありえたかもしれない未来を想像させる。

もし、二人の間柄が周防の後継者を争うもの同士でなかったら、良い友人になれたのではないかと思わずにはいられなかった。

「さよなら、早宮さん。君と働けて楽しかったよ」

私は田辺さんにこれまでの感謝をこめて深々と頭を下げた。

その日、私は5年間働いた周防建設を退職したのだった。

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