御曹司を探してみたら

「先に言っておくけどうちは小さい会社だからね。そんなに給料払えないよ?」

「雇ってもらえるんですか!?」

長机に手をつき前のめりで緒方さんに詰め寄ると、緒方さんが観念したように肩を竦めた。

「周防建設の意匠設計部で5年も働いた経験があって、実力もお墨付きとあっては断る方がどうかしてるでしょ?おまけにこーんな大層な推薦状までもらっちゃったらさあ……?」

緒方さんは履歴書と一緒に提出した推薦状を指でつまみ、ヒラヒラと私に見せつけるように揺らしたのである。

田辺さんがくれた餞別の中身は私の推薦状だった。

あの人がそんなものをくれるなんてにわかに信じられない。

しかし、その一方で私の仕事に偏見を持たずに正当に評価してくれたことが嬉しかった。

私が会社を辞めて程なくして周防建設の新人事が発表され、田辺さんの昇進とともに結婚の事実が公にされた。

わかっちの情報によると、将来有望な独身男性を失い、社内はお通夜のような雰囲気だとか。

その中には御多分に漏れずあのマドンナも含まれているらしい。

< 259 / 264 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop