御曹司を探してみたら
ウシシと笑いながら質問を受け流したのが気に食わなかったのか、武久は温玉の代わりと言わんばかりに、こちらのサラダに入っていたプチトマトを奪っていった。
地味な仕返しも、今の私なら広い心で許してあげるんだから。
「とにかく、やめとけよ。田辺がお前を相手にするもんか」
妙に確信的な物言いだったことに首を傾げていると、武久の視線は私の顔から徐々に下へと下がっていく。
「……貧乳だしな」
先日のぼんくら御曹司との騒動を揶揄するような呟きはちゃーんとこの耳にも届いた。
このっ!!さいってい男!!
「なによ!!武久なんていつもいつも、私のことをバカにして……!!田辺さんは違うんだから!!」
田辺さんは、格好良くって、紳士で、優秀で、まさに理想の御曹司サマそのものだった。
武久に悪く言われる筋合いはないはずだ。
そう思って田辺さんを擁護すれば擁護するほど事態は悪い方向に進んでいった。
「そこまで言うなら勝手にすれば?」
「勝手にするもん……!!」
……売り言葉に買い言葉だった。
武久は牛丼を食べ終えると、薄情なことに先に帰ってしまった。
「何なのよ!!もう!!」
あんなに反対することないじゃない!!
私はただ……武久に太鼓判を押してもらえたら今度こそ上手く行くんじゃないかって思っただけなのに。
もういい!!武久なんて知らない!!
もう絶対に奢ってやらないんだからね!!
私は武久がいなくなったカウンターの座席に寂しさを感じつつも、冷めた牛丼を食べ進めたのだった。