御曹司を探してみたら
(どうせ誰も気にしてないっつーの……)
私は口の中に焼き鳥を放り込むと、叩かれたことへの不満と一緒にもぐもぐと飲み込んだ。
名物にもなっている大きめの焼き鳥は男女問わず大人気の一品で、これを目当てに通っている人も多いとか。かくいう私もお店に来ると必ず注文している。
最寄りの駅から徒歩1分という立地のせいか、平日夜10時を過ぎているというのにお店はまあまあ繁盛している。
しかしながら、仕事帰りのサラリーマンや大学生の集団からは距離を置くようにして、カウンターでひっそり飲んでいる私達に目を向ける者は誰もいない。
愚痴も文句も、聞いているのは同期で飲み友達の武久永輝ひとりだけだ。
理不尽な理由で振られた挙句、何のフォローもなく街中で放置された私は辛うじて武久に電話を掛け、繋がると同時に『今からいつもの居酒屋に集合ね』と告げたのである。
……無論、ヤケ酒に付き合わせるためだ。
電話をかけ終わってからのことはよく覚えていない。
どうやってここまでたどり着いたのか記憶が定かではないが、気がつくとビールと2、3皿のおつまみですっかり酔っ払っていた。
残業終わりの武久がいつものようにやれやれとでも言いたげな苦い表情でやってくると、すぐさま愚痴を吐き出し泣きつく。
これが男性に振られた時の私のお決まりのパターンなのである。