御曹司を探してみたら

「大丈夫?」

次第に目の焦点が合わなくなってきた私を心配するように田辺さんはそっと小声で囁いた。

相手を気遣う余裕すら伺えるのが紳士たる所以なのか。

「大丈夫です……」

かたや私の方は完全に余裕をなくしていた。

おかしいな……。

そんなに飲んでないはずなのに、既に酔いがまわりかけている。

楽しくお喋りしている内に、一杯、またもう一杯と飲み進めていったせいだろうか。

(うー……)

田辺さんの前でいつもの醜態をさらすわけにはいかない。

名残惜しいが今夜はこの辺でお開きにしてもらおうか。

「た……」

そろそろと帰りませんかと伝えようとしたその時、肩に掴まれグッと顔を引き寄せられた。

「ねえ、もっとゆっくりできる場所に行かない?」

「……へ?」

……それは、確かにある種の甘い響きを伴っていた。

(ゆ、ゆっくり……?)

ゆっくりというのはひょっとして、ひょっとする!?

さすがにその意味が分からないほど初心ではない。

でも……。

(今から!?)

いや、そりゃあ……そういう展開も望んではいたけれど、ちょっと早すぎやしませんか?

最初の食事でその台詞が出てくるなんて手馴れていやしませんか!?

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