御曹司を探してみたら

(何でこんな時に限って……)

武久のことなんか思い出してしまうんだろう。

田辺さんが隣にいるっていうのに、他の男のことを考えるなんてどうかしている。

目の前にいるのは間違いなくどこをどう見ても理想の御曹司サマなのに、ただ“はい”と言って頷くだけでいいのにどうしてもできなかった。

だって……武久は。

……決して理由なく人を貶めるようなことは言わないから。

「すいません……。今日は帰ります」

そう言って隣の席に置いていたバッグを慌てて引っ掴む。

「早宮さん!?待って!!」

私は田辺さんが引き止めるのも聞かず、お財布からいくらかお札を抜き取ってカウンターの上に置くと、脇目もふらずバーから退散したのだった。

(ああもう!!私のバカー!!)

自分の行動に一番に驚いているのは、他ならぬ自分自身だった。

せっかくのチャンスを棒に振るなんて……。

逃した魚は大きい。大きすぎて目も当てられない。

……これで大したことじゃなかったら、武久の奴を締め上げてやる。

そう心に決めて階下に向かうエレベーターのボタンを押そうとした時、更なる悲劇が私に襲い掛かる。

……突如として背後から口を塞がれたのだ。

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