御曹司を探してみたら
「既婚者のくせに、遊びで手を出していい相手かも分からないのか?」
「え……?」
武久の口から意外な事実が飛び出してきて、思わず武久の顔と田辺さんの顔を見比べる。
田辺さんが既婚者なはずがない。
そんな話は誰からも聞いたことがないし、だいいち結婚指輪だってつけていないではないか。
変な言い掛かりでもつけているのではないかと、疑いの眼差しを武久に向けると、はあっと心底嫌そうな顔で告げる。
「会社では隠してんだよ。知っている奴は数人しかいない」
武久が嘘をついていないのならば……本当の嘘つきは田辺さんしかいない。
「あーあ。ばれちゃった。ごめんね、早宮さん」
ごめんねというのが口だけで、全然悪びれもしていないのは明らかだった。既婚者であることを誤魔化す気もさらさらないらしい。
「……っ……!!」
知らぬ間に不倫の片棒を担がされそうになっていたことは襲われかけたことよりもショックだった。
「二度とこいつに近づくんじゃねーよ」
何も言えない私の代わりに盛大な捨て台詞を投げつけると、武久は私の背中に手を添えて、この場から立ち去るよう促した。
私は魂が抜けたも同然のおぼつかない足取りで武久に従った。
今はただ。一刻も早くこの空間から逃げ出したかった。